前回のテレビ画面への出力実験では、縦縞や矩形という静止画を扱いましたが、今回はすこし応用して小さなドットがバウンドする映像をArduinoによって出力します。水平同期信号だけでなく、垂直同期信号も用います。今回はできるだけ細かく信号を扱うため、より精度を出す方法を用います。前回のようにdelayMicroseconds()のかわりに、_delay_us()を用いますが、_delay_us()の括弧内には変数ではなく固定した値である定数を入れます。変数を入れると演算に時間がかかってしまうために、画面は乱れてしまいます。そのかわり、ドットの動きを反映させる変数には、delayMicroseconds()を使ってもいいのですが、今回は_delay_loop_1()というコマンドを使います。これもまたArduinoのリファレンスには載っていないのですが、_delay_loop_1()を使えば、より細かなディレイを扱えます。垂直同期信号以外に、等価パルスという信号(走査線1〜3と7〜9本目に挿入)もあるのですが、今回は使わずにプログラムしました。必要な部品や配線については、前回の記事を参照してください。
バウンドするドットのサンプル:
#include <util/delay.h>
//それぞれの定数を定義する
//同期信号、3色の出力設定
#define SYNC (PORTB=0) //B00000000 //0.0V
#define BLACK (PORTB=1) //B00000001 //0.3V
#define GRAY (PORTB=2) //B00000010 //0.6V
#define WHITE (PORTB=3) //B00000011 //1.0V
//水平ブランキング期間の各時間設定
#define FRONTPORCH 1.5 //フロントポーチ
#define HSYNCPULSE 4.7 //水平同期信号
#define BACKPORCH 4.7 //バックポーチ
//走査線1本の周期
#define FULLLINE 63.5
//走査線半分の時間
#define HALFLINE 31.75
//垂直同期信号の時間
#define VSYNCPULSE (HALFLINE-FRONTPORCH-HSYNCPULSE)//25.55us
//水平ブランキング期間を除いた描画範囲の時間
#define IMAGEWIDTH (FULLLINE-FRONTPORCH-HSYNCPULSE-BACKPORCH)//52.6us
//走査線全体の数
#define ENDLINE 262
//水平同期信号(水平ブランキング期間)
void hsync(){//10.9us
BLACK;
_delay_us(FRONTPORCH);//1.5us
SYNC;
_delay_us(HSYNCPULSE);//4.7us
BLACK;
_delay_us(BACKPORCH);//4.7us
}
//垂直同期信号
void vsync(){//31.75us
BLACK;
_delay_us(FRONTPORCH);//1.5us
SYNC;
_delay_us(VSYNCPULSE);//25.55us
BLACK;
_delay_us(HSYNCPULSE);//4.7us
}
void setup(){
//出力ピン設定
//PIN8(with 1000 Ohm):0.3V
//PIN9(with 330 Ohm):0.6V
pinMode(8,OUTPUT);
pinMode(9,OUTPUT);
//割り込み禁止設定
noInterrupts();
}
//走査線の数の変数
int line=1;
//ドットの上下加速度の変数
int vAcc=2;
//ドットの上下動きの変数
int vSpeed=0;
//ドットの左右動きの変数(プラスだけの整数)
unsigned int hSpeed=10;
//ドットの左右方向の変数(右向き1、左向き-1)
int hDirection=1;
void loop(){
//4〜6本目の走査線で垂直同期させる
if(line>=4 && line<=6){
vsync();//垂直同期を2回送信
vsync();
}
else{ //描画するための走査線(4〜6本目以外)
hsync(); //水平同期信号
//ドットの上下背景を黒で塗りつぶす
//走査線75と76がドットの範囲(vSpeedが0の時)
if(line<=75+vSpeed || line>77+vSpeed){
//背景横幅の時間(52.6us)を調整のため
//二つの値に分割して設定
//48usは_delay_us()の最大値、
//3.6usは同期するように調整した値
//調整した合計時間は51.6usになる
BLACK;
_delay_us(48);
_delay_us(3.6);
}
else{ //ドットの描画
//余白調整用の黒背景
BLACK;
_delay_loop_1(15);
//ドットの左側背景部分を黒に塗る
BLACK;
_delay_loop_1(hSpeed);
//ドット本体を白に塗る
WHITE;
_delay_loop_1(1);
//ドットの右側背景部分を黒に塗る
BLACK;
_delay_loop_1(256-hSpeed);
}
}
//走査線のカウントアップ
line++;
//最後の走査線まで来たら
if(line>ENDLINE){
line=1; //最初に戻る
//ドットの上下運動の計算
vAcc+=1; //加速度(速度の加算)
vSpeed+=vAcc/8; //8で割って少し遅くする
if(vSpeed>180){//速度が180を超えたら減速
vSpeed=180;
vAcc*=-1; //加速度の向きを変える
}
//ドットの左右方向の計算
hSpeed+=hDirection; //加速
//画面両端まで行ったら向きを変える
if(hSpeed<=1 || hSpeed>=255){
hDirection*=-1;
}
}
}
追記:
プログラムの手順としては、
・同期信号、黒、グレー、白に対する出力ピンの設定(8番、9番ピン)
・水平同期信号(水平ブランキング期間)の設定
・垂直同期信号の設定(必要であれば、等価パルスの設定)
・それぞれに用いる時間の定数を#defineで定義
・1本ずつ走査線を出力(合計262回:262ループ)
となります。
_delay_us():
括弧内に小数点を含んだマイクロ秒の数値を入れることができます。
ただし、変数を入れると演算が遅れてしまうので、#defineなどで定義した定数を入れる方がいいとリファレンスなどには書いてあります。
最大値は48マイクロ秒(Arduinoクロック数が16MHzなので)。それ以上ディレイする場合は、二つに分けて書くなど工夫が必要となります。
_delay_loop_1():
括弧内に変数として256までの整数値をいれることができます。
_delay_loop_1(256)で48マイクロ秒(最大値)。
_delay_loop_1(1)で0.1875マイクロ秒(最小値)。
_delay_loop1()は、3クロック分が処理時間になります。Arduinoは16MHzに設定されているので、1クロックが0.0625マイクロ秒になります。3クロック分なので、最小0.1875マイクロ秒単位で設定できることになります。今回のドットの横幅は_delay_loop_1(1)に設定したので、0.1875マイクロ分の長さになっています。走査線1本で描画できる範囲は、水平ブランキング期間(10.9マイクロ秒)を除いて、残りの52.6マイクロ秒になるので、数値的には52.6/0.1875で約280個の点に分割(解像度)できますが、コマンドによる処理時間も加えると、解像度はそれ以下にならざるを得ません。
それぞれの走査線の周期が異なっても、ある程度はテレビのほうで信号を調整してくれるとは思います。ただし、プログラム上で合計時間が合っていても、コマンドの数が多ければそれだけ時間がずれていくので、多少の時間調整を画面を見ながら行う必要があります。AVRマイクロコントローラは基本的に一つのコマンドで1クロックの時間がかかりますが、小数点の計算や条件文の設定などによっては、1クロック数以上かかるときがあるので、プログラムの仕方によって処理速度が変わってきます。その点を踏まえて、多少の時間調整を走査線ごとに行う必要がでてきます。そのために、配列を使って画面をピクセル状に分割し、毎回の処理速度が一定になるように、プログラムすればいいのかもしれません。
簡単な計測を行ってみると、forループを使うと毎回のループで5クロック程度、ifを使うと4クロック前後、変数を使うと3クロック前後消費していました。プログラム上でこれらのコマンドを組み合わせて使おうとすると、少なくても一つの値に対して、11クロック位は消費してしまうので、改善の余地はまだあるかもしれませんが、解像度は精々70程度かその半分程度になってしまうかもしれません。同時にRAM容量の限界もあるので、それほどきめ細かい解像度はあまり期待できなさそうですが、シンプルな表現として使うのであれば、まだ工夫できそうです。
より複雑で完成度がある映像をつくるのであれば、Processingでプログラムしモニターやプロジェクターで投影した方がいいはずです。ただ、Arduinoによる映像出力は、わざわざコンピュータと接続する必要もなく、乾電池などの外部電源を用いればスタンドアロンの装置として、簡単に既存のテレビモニターに接続可能になります。さらに発展させれば、BlueToothやXbeeなどの無線モジュールと組み合わせて、遠隔的に映像を配信することも可能になるかもしれません。同時に、今後利用されなくなるであろうブラウン管テレビモニターの再利用方法にもつながるかもしれません。
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